ザッパ必聴盤5選『アンクル・ミート』

デビュー時は5人だったマザーズだが、このころには10人前後にもふくれあがり、大所帯となっていた。ステージでの演奏は、フリージャズや現代音楽色が濃くなり、前衛ロックの旗手の名を不動のものにしていった。そんなオリジナル・マザーズが辿り着いた、桃源郷ともいえる作品。当時、企画して、結局実現されなかった、同名未完成映画のサウンド・トラックとして制作されたもの。ザッパ作品中では、インスト中心、現代音楽やクラシックよりの作品に分類されるものだ。

まず、このアルバムの特色だが、なんといっても音が愉しい。ハープシコード、電気オルガン、マリンバや、サックス、フルートなどの管楽器、その他さまざまな愉快な音たちが、緻密にはしゃぎ回っているのだ。サウンド全体はヌケがよく、大ホールで演奏してるかのような印象さえうける。

アルバム冒頭のマリンバには、思わず仰け反りそうになる。ザッパはいつも、のっけから度肝を抜いてくれる。

5曲目『ドッグ・ブレス』はこのアルバム中、数少ないヴォーカル入りの曲だ。前半の目玉ともいえる曲だろう。マザーズ初代ヴォーカリスト、レイ・コリンズのヴォーカルは、甘すぎず膨れ上がり、なんとも耽美だ。そして聞きどころは後半のインスト部分。はじまったとたん、思わず息を潜めてしまうこの展開は、まさに「聴かせる音楽」をつくるザッパの真骨頂だ。音響系やシカゴ系ポストロックのアーティストたちが、束になってかかっても敵わない、豊潤な音空間を堪能させてくれる。

そのほか、最初から最後まで聞きどころなのだが、このアルバムを語るうえで、やはり外せないのは、アナログではD面にあたる、大作『キング・コング』だ。この曲は6部構成のメドレー。パート1からパート5まではスタジオ録音、パート6がライブ録音となっている。

まず、スタジオ録音のほうだが、抑制されたノリと小気味よいスピード感のなかを漂う、繊細な音たちが、わたしを瞬く間に、形容不能な異空間へ引き込んでくれる。そして、曲間なくライブになだれこんでいくわけだが、そのライブがまた凄い。ジャズ・ロックという言葉があるが、この演奏はフリー・ジャズ・ロックと呼ぶにふさわしい。生身の人間が服をはち切らせながら、野獣キング・コングに大変身するかの如くな嵐の演奏に、強姦されている気分だ。いくつかあるこの曲のライブ・テイクの中でも、ベストと断言したい。

オリジナル・マザーズ、珠玉の記録。

ジャズ・ロックの名盤『ホット・ラッツ』やビッグ・バンドものの傑作『グランド・ワズー』『ワカ/ジャワカ』などが順当だろうが、このコーナーでもとりあげてる万華鏡的傑作『ワン・サイズ・フィッツ・オール』にいくのもいいかもしれない。また、初期マザーズの在庫処理的アルバム『バーント・ウィーニー・サンドイッチ』『いたち野郎』でエキセントリックさを味わうのもよいかもしれないし、はたまた、デビュー作『フリーク・アウト!』から順に聞いてザッパ山を登っていくのも悪くない。
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アンクル・ミートの曲名 アマゾン