ザッパ必聴盤5選『シーク・ヤブーティ』

デビューから13年、これまで、さまざまな音楽的ボキャブラリーでもって、数々の傑作をつくりあげてきたザッパだが、その流暢さの極致をいく作品。娯楽性(=ドアホ性)と音楽的クオリティとの両立を難なくやってのけているのだ。ライブ音源をベースにスタジオ編集で決定版をつくるという、制作手法が全開し、その疾走感たるもの、まばゆいばかりだ。

「ナァーナァナァナァナァー ウゥーウ」というコーラスではじまる1曲目、「アイ・ハヴ・ビーン・イン・ユー」から、ザッパのギターが飛翔するラスト「ヨー・ママ」まで、息つく間もなく楽しませてくれる。テリー・ボジオやエイドリアン・ブリュー、また自身のヴォーカル曲などの使い分けは、コントラストを生んで気持ちいいし、得意のコラージュものやギターものが、アルバム中の、ある種だれ場的な役割を果たし、決して退屈させない。

だが、なんといっても、わたしを魅了してくれるのは、そういった構成面の妙ばかりではなく、時間の断片を感情化する音の巧みさだ。表現力は冴えわたり、既定の美意識などNO眼中なその様は、いくつもの道具を4次元ポケットから取り出し、お手玉しながら突っ走ってしまうかの如くだ。

わたしは、これほど音楽で、自由自在に表現行為をできる人を他に知らない。

我々は生まれたとき、泣きわめくだけで、なにも話すことはできない。成長するにしたがい、言葉を獲得し、自由自在に話すことを覚える。だれでも日常生活のなかで体で覚えることだ。ザッパはそれと同じような過程を音楽で経てきた人だと思う。果敢な音楽的探求、猛烈練習、創作活動の日常化が、ジャンルに縛られない、個性豊かな作品をつくりあげるに至ったのだ。

本作はその娯楽性(=ドアホ性=自己表出性)からか、ザッパの最高傑作という評価がある一方で、「踏絵的傑作」ともいわれている。ある意味、代表作にして、自分のザッパ信者度をはかれる作品ともいえるだろう。

1976年のライブを収めた『ザッパ・イン・ニューヨーク』や同じく、翌年のニューヨークでのライブを収めた映画『ベイビー・スネイクス』のDVD及びサントラCDがオススメ。その他にテリー・ボジオ(ds)参加のものは『ボンゴ・フューリー』『ズート・アリューズ』などがある。
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シーク・ヤブーティの曲名 アマゾン