ザッパ作品紹介/いたち野郎

ネオン・パークのジャケット画が印象的な本作は、オリジナル・マザーズの最終作。本作と前作の『バーント・ウィーニー・サンドウィッチ』はマザーズの在庫処理的アルバムだ。

内容は1967年から1969年までの、ライブ/スタジオ音源を、抜群の編集センスによって、恐ろしくも狂おしい美的作品へと仕上げた、超強力作。オリジナル・マザーズの前衛ロック・ダイジェスト版ともいえるものだ。エキセントリックさにおいては、ザッパ作品中、随一といえるだろう。

そして、それをのっけから、印象づけるのは1曲目「ディジャ・ゲット・エニイ・オンヤ」だ。まったく、暴力的としか思えない、ドラムスとサックスに、まず、度肝を抜かれる。そして、ローウェル・ジョージの奇声や語り、フリージャズなドラムス、サックスが、現代音楽と同居し、マザーズの音楽としかいいようのない世界を提示してみせる。

ちなみに、この曲に参加のローウェル・ジョージは、後にロイ・エストラーダと共にリトル・フィートを結成することになる。

つぎの「心から」は『ホット・ラッツ』でも活躍したドン・シュガー・ケイン・ハリスの、エレクトリック・ヴァイオリンとヴォーカルの泥臭さが堪らないブルース・ロック。日本盤ライナー・ノーツによれば、リトル・リチャードのカヴァーということだ。

3曲目の「セクシュアリティ・ガスマスク序曲」は、'93年に発売された'68年のライブ『アヘッド・オブ・ゼア・タイム』の音源からカット&ペーストされている。このアルバムの危険な香りの演出に適した素材だ。ザッパの編集感覚が冴えたチョイスだと思う。

「森のひきがえる」は、おとぎの森を楽しく歩いていると、突如、目の前に、過成長した、ひきがえるの大群が蒸せ返し、けたたましい鳴き声に、窒息させられるような曲。メルヘンチックなメロディとサックス・インプロヴィゼーションが、うまくヴィジュアルを表現した、物語を感じさせる曲だ。

「エリック・ドルフィー・メモリアル・バーベキュー」はザッパのエリック・ドルフィーへの追悼曲。ザッパ流『アウト・トゥー・ランチ』といった趣のある、フリー・ジャズ風の曲だ。そういえば、ザッパがエリック・ドルフィーのアルバムをプロディースするという計画もあったようだが、実現はされてない。

「ギターでおふくろを殺してやりてぇ」は、彼女の両親に、髪を切るまでウチにくるなといわれた男が、ギターでお前のおふくろを殺してやりてぇと、ぶち切れてる歌。不潔な主人公に似合ったサウンドに、ギターが直情する、豪快な曲だ。

そして、後半のハイライトは、「オー・ノー」〜「オレンジ・カウンティ・ランバー・トラック」〜「いたち野郎」の流れ。「オー・ノー」は'64〜'65年頃に書かれたらしい曲で、以前は『ランピィ・グレイヴィ』に収められているが、本作では、レイ・コリンズのヴォーカルが加わっている。「オレンジ・カウンティ〜」は『アヘッド・オブ・ゼア・タイム』にフル・ロング・ヴァージョンが収められているジャズ・ロック風なインスト・ナンバー。そして、ラストは、タイトル曲「いたち野郎」の、元祖オルタナともいえる轟音でしめくくられる。

危険な美しさに充ち満ちた本作は、60年代ザッパを知るうえで、絶対に、はずせない作品。「オリジナル・マザーズ・メモリアル・バーベキュー」とでも呼びたい、必聴盤だ。

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いたち野郎の曲名 アマゾン