脳天気のススメ。オーネット・コールマン『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』
オーネット・コールマンは、僕の好きなタイプの音楽家だ。オーネットはフリージャズの創始者なわけだけど、いわゆるアヴァンギャルドというイメージとは違って、非常に天然ちゃんなところに好感を持てる。
神妙ぶって「俺たち、凄いことやってまっせ」といったノリでは全然なくて、真面目に脳天気なんだろうと思う。
オーネットの代表作『ゴールデン・サークルのオーネット・コールマン VOL.1』を初めて聴いたときだって、なんかこ難しくて解らない、高度でついていけないというよりも、感覚のどこにも引っ掛からない、右の耳から聴いた音が左の耳から抜けていくといった感じで、気が付いたら上の空という状態だった。
これまでに自然と体得した心地よいと思う感覚から、すべてがズレていたんだろうけど、それが、いつの間にか好きになってたんだから、知らずのうちにこちらの耳が変化したんだろう。そう考えると、やはりオーネットって偉いと思う。
さて、話を本作に移すと、これは76年の作品。だいたい70年代といえば、エレクトリック・マイルスばかりが持ち上げられる。でもオーネットももっと話題に上ってもいいんじゃないだろうか。
例えば、僕にはマイルスの『オン・ザ・コーナー』と非常に対照的な名作という印象を持つ。
『オン・ザ・コーナー』のシャープで緊張感あるカッコ良さとは反対に、非常に伸びやかで捉えどころのない感覚がリスナーの心を包容してくれる。
ここでの聴き物は「テーマ・フロム・ア・シンフォニー(ヴァリエーション・ワン)」及び、ヴァリエーション・トゥ。もう1曲「ミッドナイト・サンライズ」というテイクもあるけど、これは73年の音源で、モロッコで録音されたもの。全く違う音楽なので、まぁ、オマケと思ってもいいかもしれない。
それで「テーマ・フロム・ア・シンフォニー」なんだけど、一言でいって、めっちゃオモロい。もう、それに尽きる。みんなバラバラなのに、なぜだか融合してるから面白い。時間軸に沿った不定形な変化が、アメーバのようでファンタスティック。そういった意味では、非常に動的で弾力性に富んだ音楽だと思う。
子供の頃、銭湯で、風船を水で膨らまして、床を滑らして遊んだことがある。その時、風船がボヨンボヨンと形を変化させながら滑っていくのが凄く楽しかったんだけど、そんなことを思い出させる無邪気な音楽だ。
あと、個人的にはズコ・ドコしたドラムが耳を捉えて離れない。このノリはビーフハート・ファンなら間違いなく気に入るだろう。
とにかく聴いてるとハッピーな気分になる作品。最近、殺人や自殺がたくさんあるけど、なにか悩める人には、本作の伸びやかな音楽を毎日聴いて、潜在意識から変革をしてもらいたいものだなぁ。