ザッパ作品紹介/ロキシー・アンド・エルスウェア

『オーヴァーナイト・センセイション』『アポストロフィ』で新境地をひらいた、ザッパ/マザーズの'74年のウルトラ・ライブ。

'74年は、マザーズ10周年を記念し、ツアーに明け暮れた年だった。このライブはハリウッドのロキシーでの音源をおもに、シカゴのオーディトリアム・シアター、ペンシルヴェニア州エディンボロにある、エディンボロ州立大学の体育館での音源を加えたかたちとなっていて、いくつかのテイクにはオーヴァー・ダブが施されている。LPでは、二枚組として発売され、それぞれ各面のアタマはザッパのMCで始まるスタイルとなっている。

音楽性についていうと、もう、異次元ロック全開というほかないザッパ節が炸裂したものになっていて、ザッパが、真に個性的な表現を獲得したということを実感できる。

バンドも人気の「ワン・サイズ・マザーズ」で、特にこの作品では、チェスター・トンプソン、ラルフ・ハンフリーのツイン・ドラムスに、トム・ファウラー(ベース)の兄弟、ブルース・ファウラー(トローンボーン)、ウォルト・ファウラー(トランペット)が加わった重厚布陣。ジョージ・デューク(キーボード)、ルース・アンダーウッド(パーカッション)の活躍は、いうまでもないことだが、ナポレオン・マーフィー・ブロック(テナー・サックス、フルート)がヴォーカルをとるようになったことで、より色彩感が増したといえる。

そして、こんなパワフル・バンドの面々たちが、我々を、どこでもない場所へ連れてってくれる。1曲目の「ペンギン・イン・ボンディッジ」からして全くのアウト・ゼア。他のバンドでは聴くことのできない、ブッ飛んだサウンド、展開には、度肝を抜かれるに違いない。そして全体的にそんな調子なのだが、改めて触れておきたいのはラストの「ビー・バップ・タンゴ」。

ザッパのMCではじまるのだが、その中で、「高度に進化し整理しなおされたタンゴ」、「倒錯したタンゴ」と評し、また「恐ろしく難しい曲」だと述べて、演奏をはじめる。そして、こんな、日常生活ではありえない、ただならぬ佇まいの曲を導入部に、お客をステージにあげてダンス・コンテストをおっぱじめてしまうのだから、おかしくてたまらない。こんなショーの模様を作品化してくれていたことは、貴重に思うばかりだ。ただ、ザッパとお客とのやりとりの部分は漠然と聞いてると退屈してしまう恐れがある。そんな時は、歌詞対訳を読みながら聴き進めていくことをお薦めする。こうすると、ショーの模様が如実に浮かび上がってきて、すこぶる楽しい。

最後に、このツアーでの別作品『オン・ステージVOL.2』について触れておこう。この作品は、伝説化しているヘルシンキでのライブを収めたもの。次作『ワン・サイズ・フィッツ・オール』収録の「インカ・ローズ」のギター・ソロは、ここから取られていることでもよく知られている。レパートリーは本作と重複するのだが、ザッパによれば、「ひとつのバンドが同じ曲を一年間に渡って演奏し続けるとどう変化するかを、ただでさえ難しい曲を恐ろしく速いテンポで演奏している事実がよく示しているだろう」というように、かなりかっ飛ばした演奏となっている。驚愕ライブなので、本作とあわせてお楽しみ、どうぞ。

 戻るザッパ入門TOP
ロキシー・アンド・エルスウェアの曲名 アマゾン