ザッパ作品紹介/ミーツ・ザ・マザーズ・オブ・プリヴェンション

旧MSI盤の邦題は『ザッパ、検閲の母と出会う』。このタイトルには、大きないきさつがある。

それは、PMRC(日本でいうPTAの様な機関)という団体が、歌詞の検閲を訴えるキャンペーンを始めた。その際、ザッパは上院公聴会に出向き、PMRCの提案を否定する陳述をした。だが、結局、レコード業界はPMRCに屈服することとなり、90年以降、やばい歌詞がある場合は、ジャケットには警告ラベルを貼らねばならなくなったのだ。

ちなみに、旧MSI盤には、ザッパの陳述内容や、ザッパからレーガン大統領に充てた手紙など、情報盛りだくさんのライナーが付いている。

なお、オリジナル・アナログ盤では、アメリカ盤とヨーロッパ盤の2種類が存在し、収録曲が一部異なったが、現行のCDでは両ヴァージョンの曲が収録されている。

さて、内容面だが、バンド演奏とシンクラヴィアによる演奏が半々に収められている。シンクラヴィアとは、シンセサイザー、サンプラー、シーケンサーなどの音楽制作環境を統合した電子機器のこと。

そのシンクラヴィアの楽曲は、ザッパの電脳世界を垣間みることができる。

「一人一票」は、弾力のある打ち込みリズムに、メリーゴーランドに乗ってるようなメロディーが心地よい。楽しい曲なのだが、音色は、暖かく艶のある灰色といった感じで、独特の感触がある。

また、バンド演奏のものはどれも素晴らしく、娯楽度が高い。後のライブ盤『ブロード・ウェイ・ザ・ハード・ウェイ』を思い出してしまう。

「ウィーアー・ターニング・アゲイン」は素晴らしいボーカル曲。しなやかな演奏とボーカル/コーラスが素晴らしい。随所にザッパらしい展開をみせ、息付く間もない。これはかなりの傑作ではないだろうか。

続く「エイリアンの巣窟」も楽しいインスト曲。エド・マンのパーカッションが大活躍だ。後半はザッパのギターが炸裂して、その後の複雑な展開には目眩がしそうだ。

「ヨー・キャッツ」も大人のムード漂う、ボーカル曲。映画の数シーンを想像させる、ダンディーな佇まいだ。ザッパの音楽からは、映像的イメージを感じるものが多い。

「ホワッツ・ニュー・イン・ボルティモア?」の後半、ザッパのソロの飛翔は素晴らしい。なんだか、人類は不滅、永遠の命すらあるような気がしてくる。

そして、最大の聴きものは、PMRCの公聴会の様子を素材にコラージュした「ポルノ・ウォーズ」。これは面白い。シンクラヴィアと一部バンド演奏に、公聴会での女性議員の猥褻発言などがコラージュされたユニークな作品。無機的な音と肉声のミックスが、なにやら退廃的世界を創出する。

個人的には、バンド演奏の曲はどれも楽しいので、その路線で1枚のアルバムとして聴いてみたかった気もする。また、シンクラヴィア主体のものでは、グラミー受賞作『ジャズ・フロム・ヘル』をオススメします。

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ミーツ・ザ・マザーズ・オブ・プリヴェンションの曲名 アマゾン