ブライアン・イーノ『HERE COME THE WARM JETS』(1974)
この前、近所のツタヤでCDを物色していたら、このブライアン・イーノの紙ジャケ盤が目にとまった。よくよく帯を読んでみると、DSDマスタリングと書いてあったので、僕が持ってるCDより音が良くなってることを期待して借りてきた。
ブライアン・イーノはアンビエント・ミュージックの創唱者として知られるが、最初はロキシー・ミュージックに在籍していて、ブライアン・フェリーとの確執で脱退した。
これはロキシー脱退後のソロ1作目にあたる作品。非常にシャープな感覚に貫かれた異形ポップの傑作だ。聴いていると凄く潔いサウンドでカッコイイなぁと思えてくる。
よくロックは白人が黒人音楽に影響を受けて出来た音楽だと言われる。白人が黒人の模倣をし試行錯誤してるうちに出来上がった音楽なんだと。だから、良く言えば批評的ということなんだろうけど、言い方を変えれば、成りそこない、出来そこないの音楽ともいえるだろう。
だが、イーノのこの音楽からは「成りそこない、出来そこない」という感覚がしないのだ。普通なら憧れの対象に近づこうと努力をするものの、対象そのものにはなれず、結果的に自分のセンスに気がついたりして、独自の音楽ができていくものなのだろうけど、イーノの音楽からはそのようなプロセスがあったようには感じられないのだ。
もちろん、アメリカの1950〜60年代のロックン・ロールやポップスを聴いて育ったというから影響は受けてるのだろうけど、影響の受け方が一生懸命コピーして体得しようというものではなく、先人たちの創った音楽を最初から素材として扱ってるように思えるのだ。たぶん美術経験があることが要因かもしれない。自分のセンスというか体質というのを良く理解していたんではないだろうか。
それでこの作品なのだが、汗や砂や土といった自然物の風情が削ぎ落とされたサウンドが最高にカッコイイ。それに空気にシュパーと溶けるような響きがなんとも気持ちいい。今で言うポストロック/エレクトロニカなどの祖先のようなサウンドというべきか。
特に2曲目と3曲目の切り替わりのところは大好きで、何度聴いてもゾクゾクしてしまう。その3曲目「BABY’S ON FIRE」は実にクールでホットな曲だ。僕はこの曲を聴くと、ロケットが大気圏に突入しているかのような高熱と、そのロケットの中は涼しくて快適な空間であるような光景を空想してしまう。
7曲目の「BLANK FRANK」もとても強靭な曲だ。この曲と先の3曲目ではロバート・フリップがギターを弾いてる。
8曲目のエンディングの電子ノイズのコラージュも秀逸だ。そこから9曲目に切り替わるところもハッとさせられる。その9曲目のエンディングもポワーンポワーンと鐘のような打楽器音が響く音響系とでもいうような展開になっていて面白い。そして次の最終曲もよく聴いていると、そのポワーンポワーンという音が小さく鳴り響いてて、非常に細部まで処理された空間が聴く者を飽きさせないようになっている。
ニューウェーブ以前にこのような作品をつくっていたイーノは本当に才人だと思う。イーノほどクリエイターという形容がふさわしい人はいないのではないだろうか。